・プログラムのひみつ

 

  登場人物紹介

人々

  博士・蟹太くん・通子ちゃん・朱雀院純

  博士:何でも知っている偉い人。
  蟹太くん:好奇心旺盛な少年。わりと頭が悪い。
  通子ちゃん:蟹太くんの友だち。わりと性格が悪い。
  朱雀院純:通子ちゃんの危機を助けてくれる謎の少年。
       一見ぶっきらぼうだが、本当はとても優しい。


蟹太君、みたび不審な挙動をとる

  蟹太「俺の山芋……心の山芋……」
  博士「おや、蟹太くん、どうしてそんなに挙動不審なのかな」
  蟹太「ゲゾレンブロホニパララスケンテレスクトンバーレン!」
  博士「蟹太君!」
  (バキッ)
  蟹太「あ、博士、実はゲームのプログラムがどうやってできるのか知り
     たくて、我慢できないんです」
  博士「なるほど、そんなこともあろうかと、今日もまた、ゲームのプロ
     グラムをしているお兄さんを呼んでおいたのじゃよ」
  蟹太「ヒャッホーッ! やったぜ! 親父ィ〜〜ッ!」
  通子「なんか玄関で髪の長い男の人が倒れてましたよ、博士」
  博士「しまった! 侵入者撃退用のトラップをはずすのを忘れておった
     わい。では、わしが代わりに説明しよう」
  蟹太「よろしくお願いします」
  博士「ふむ。ではまず核心から話そうか。プログラムとは――
     魔術そのものなのじゃ!」
  蟹太&通子「ええっ!?」

俺の話を聞いてくれ

  蟹太「博士、あなたは錯乱している!」
  博士「いや、どういうことかというと……」
  通子「わ、わたし、博士の知性を尊敬していたのに……!」
  博士「きみたち、私の話を聞きなさい」
  蟹太「所詮この人も二十世紀の遺物だということだよ。失望だ」
  博士「ええい、修正してやる!」
  (バキッ)
  蟹太「ぶ、ぶったね……父さんにも殴られたことないのに」
  博士「まず、私の話を聞きなさい。君たちは、魔術と聞くと何を思い浮か
     べるかな。生け贄をささげたり、呪文を唱えたりかな」
  通子「まあ、そんな感じですね」
  博士「ふむ。魔術は現在、そういった非科学的なイメージでとらえられが
     ちじゃな。ところが、魔術と科学の本質は同じものなのじゃ」
  蟹太「魔術と科学が同じ? 非科学的な迷信を魔術というのではないので
     すか、博士? どうも納得がいかない」
  博士「例えてみよう。乾いた木に火を近づけると燃える。これは科学的な
     話じゃな。火を近づけたという原因があって、木が燃え出すという
     結果が生じる」
  通子「わかります」
  博士「さて、昔の人はこれをどう考えるじゃろうか。今のように、酸素や
     炭素などの知識のない時は、熱いものを近づけたから、熱い状態が
     木に移ったのだと考えるじゃろう。同じように、雨乞いをしたから
     雨が降ったと考えるとき、雨乞いが原因でその結果が降雨であるの
     と、火を近づけた木が燃えるのは、同じリアリティをもって感じら
     れたはずじゃ」
  蟹太「魔術も科学も、原因と結果の関係を知ることなんですね」
  博士「いや、原因と結果の関係を知るのはただの知識じゃ。原因と結果の
     関係を知り、それを利用しようと言う技術が科学であり、呪術なの
     じゃ。原因と結果、これからは因果と略すが、因果の洞察が正解で
     あった場合、これが科学じゃ。因果が錯覚であった場合が呪術じゃ」
  通子「呪術? 魔術とは違うのですか?」
  博士「うむ。呪術は魔術の前段階と考えてよかろう。私はなにげない迷信
     なども、因果の錯覚として呪術に含められると考えておる」
  蟹太「僕は野球の試合に行くときは、右足から家を出るとヒットが出ると
     いうおまじないをしているんですが、同じですね」
  博士「そのとおり。右足から家を出るのが原因、ヒットを打つのが結果と
     いう、因果の錯覚なわけじゃ。まさしく‘お呪い’じゃな」

魔術の本質

  博士「それでは、魔術の本質とは何なのじゃろうか。私は、魔術の本質を
     さきほど言った呪術をさらに利用した技術と考える」
  通子「ええと、呪術というのが、錯覚だけど因果を知って利用する技術な
     んですよね。それをさらに利用するというのは?」
  博士「科学に例えよう。火を近づけた木が燃えると知るのが知識じゃな。
     知識を利用として木を燃やし、さらに別の科学知識を使って、水を
     火にかけて沸かし、さらに別の知識を使って、蒸気機関を走らせる
     このような手順を、呪術でもって行うのが魔術なのじゃ」
  蟹太「なるほど……」
  博士「そして魔術の本質とは……
     @世界を意志に従わせるため
     A決められた手順を踏む
     ことなのじゃ」
  通子「世界を意志に従わせるため?」
  博士「うむ、この場合の世界とは、もともと自分の意志で動かないもの、
     それら全てだと考えたまえ。それは自然現象かも知れんし、他人の
     心かもしれんし、金運かも知れん。神や悪魔でもありうる」
  蟹太「そうか、悪魔を呼び出して願いを叶えるために、決められた手順を
     踏む、というわけですね」
  博士「そう。決められた手順には、正確な言葉、正確な動作、正確な媒介
     などが多いようじゃ」
  通子「悪魔の名前を間違えて発音したら、魔術は失敗すると聞いたことが
     あります」
  博士「色々あるだろうが、魔術は上の二つが本質と考えて間違いない」

プログラムの本質

  博士「さて、ではプログラムの話に入ろうかの」
  蟹太「ついにここまで来ましたね。長かったなあ」
  博士「いやいや、これでも苦労して縮めたのじゃよ(こちらの話)」
  通子「それで、プログラムは魔術とどう関係があるのですか」
  博士「うむ。きみたちは、プログラムをどんなものと考えるかな」
  蟹太「ええっと、ソフトを作ることですか」
  博士「では何のためにソフトを作るのじゃろうか」
  通子「それは、コンピューターに自分の好きな仕事をさせるために……、
     あっ!」
  博士「通子ちゃんはどうやら気づいたようじゃな。蟹太君、プログラムは
     具体的にはどういう風にするのかな」
  蟹太「どうって、プログラム言語とかを使うんじゃ……あっ!」
  博士「そう、二人とも気づいたみたいだね。プログラムとは、
     @コンピューターを意志に従わせるため
     A決められた手順を踏む
     ことにほかならないのじゃ!」
  通子「正確な言葉、正確な動作、正確なファイルが無ければプログラムは
     失敗する……ということですね!」
  博士「魔術は錯覚の中で成立している論理を制御しようとしているのに対
     し、プログラムはコンピューターのなかの論理を制御しようという
     わけじゃな」
  蟹太「そうか、プログラムも魔術も、本質は一緒なんだ!」
  博士「実際、はじめてコンピューターを作った人たちは、魔術に造詣が深
     い人たちであったはずじゃ。科学の粋のようなコンピューターじゃ
     が、もともと科学と魔術は同じもの、かのニュートンだとて錬金術
     や神学に手を染めていたのじゃからな」

つまりどういうことかというと

  博士「これで、プログラムと魔術の相似性が理解できてもらえたと思う」
  通子「はい、わかりました!」
  蟹太「プログラマーは魔術師なんですね!」
  博士「そうじゃ! 彼らは悪魔に生け贄を捧げ、毎晩怪しげな儀式にふ
     けっておるのじゃ!」
  通子「ホウキに乗って空を飛ぶんですね!」
  博士「つねに黒いローブを着て、杖を持っているのじゃ!」

季節の変わり目には風邪に気をつけよう

  蟹太「ところで、僕は当初、ゲームのプログラムについて知りたかった
     んですけど」
  博士「ワーッハッハーッ!」




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