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本の話/7つに分裂した!


シーン7
         

榎木 律也 「よし。卓球だ。卓球をやろう」

声にかぶさるようにしてF・I。場所は二階の渡り廊下。榎木律也と真名瀬裕太が折り畳んだ 卓球台をガラガラと引いて画面右からイン。二人とも枯葉色の制服姿であるが、ネクタイをゆるめ、 シャツのすそを出したラフな格好である。

真名瀬 裕太 「馬鹿め。俺が中学時代に体育の選択が卓球だったことを知らぬわけでもあるまい」

榎木 律也 「いや、初耳ですが……」

言いながら卓球台を組み立てる二人。そこへ後続の三鷹槍、押川蓮太郎、梅村房緒、園田麗華が画面右からイン。

三鷹 槍 「つうかオマエら、ラケットもボールもなしにどうやって卓球するんだ」

榎木 律也 「なるほど」

真名瀬 裕太 「なるほど」

一同、笑う。榎木と真名瀬が台を挟んで相対し、残りは廊下の壁際に座る。真名瀬がラケットとボールを構える。

真名瀬 裕太 「では行くぞ! 俺が修練の果てに編み出した絶技、レインボー・ミラージュ・サービスを受けて絶望するがいい!」

真名瀬のラケットがピンポン球を激しく打った瞬間、ピンポン玉が虹色に輝き――七つに分裂した!
というようなことはなく、普通の打球が普通に跳ね、ネットに当たって台の下へ落ちた。

榎木 律也 「それがレインボー・ミラージュ・サービスか。大した幻惑効果だな」

真名瀬 裕太 「う、うるせえ! これは……これは、貴様程度に俺の魔球を使うまでもないととっさに判断し、 そのため手元が狂い、結果として普通以下の打球になってしまったのですよ?  次はもう最初から普通にレベルの高い普通の打球が飛ぶわけですよ? 見てろ」

真名瀬がラケットを普通に振るが、ピンポン球には当たらず、球は地面へと落ちて跳ねる。

真名瀬 裕太 「今のは威嚇だ」

榎木 律也 「俺は、いつになったら卓球が始められる?」

F・O。タイトル表示。タイトル表示消えにかぶさるようにN。

ナレーション 「転校歴2年、晩春。当時の暦で言うと西暦1997年のことである」

F・I。榎木と真名瀬が卓球をしている音を背景に、壁際の4人。 4人の会話の邪魔にならないように榎木と真名瀬のかけ声も入る。

梅村 房緒 「押川くん、拾った子、名前は決まったの?」

押川 蓮太郎 (卓球をしている二人を見ながら)「……うん」

梅村 房緒 「なんて?」

押川 蓮太郎 「希望」

三鷹 槍 「きぼう? きぼうって、ホープのきぼうか?」

押川 蓮太郎 「……ああ。字もそのまま」

そこで卓球台で大技が決まったらしく、4人が「おお」「すごい」などそれぞれつぶやく。

園田 麗華 「……でも、いい名前じゃない?」

梅村 房緒 「そうね。希望……。いい名前だと思うよ」

押川 蓮太郎 (ちょっと照れて)「……どうも」

三鷹 槍 「確かに、子供としてはいい名前だ……。(口の中で笑ってから)でもな、ヨボヨボの爺さんになったら、希望、っていう名は似合うかどうか」

押川 蓮太郎 「似合うさ」

園田 麗華 「希望っていう名が似合う人生を送ってきたお爺さん、になるのよ」

三鷹 槍 「お、うまくまとめたね、文芸部」

園田 麗華 (照れて)「いや、別にそんな……」

梅村 房緒 (ちょっと間をおいて)「じゃあ、押川希望になるんだ、あの子」

押川 蓮太郎 (少し驚いたように)「押川……」

梅村 房緒 「名字がなかったらかわいそうでしょ?」

押川 蓮太郎 「そうだな……そうだ。かわいそうだもんな」

急にピンポン球が画面左から入り、押川の眼鏡に当たる。

押川 蓮太郎 (当たってからびっくりして)「うおっ!?」

カメラ、押川の死角から球が飛んできたことを示すため、押川の右目が閉じられているところを強調する。
画面左から真名瀬がイン。

真名瀬 裕太 (謝る)「いやゴメン。ゴメンな眼鏡」

押川 蓮太郎 (苦笑する)「人に当てといて眼鏡よばわりかよ……」

真名瀬 裕太 「いや、それは誤解だ。俺は蓮太郎には当てていないが、眼鏡には当てた。 だから眼鏡に謝罪しているのですよ? ゴメンな眼鏡。眼鏡ゴメン」

押川 蓮太郎 「悪いけど俺の眼鏡はしゃべれない。詫びの言葉は所有者にほしいな」

真名瀬 裕太 (わざとらしく無視しながら)「ところで、俺、疲れたんだけど、誰か交代しない?」

榎木 律也(声) 「いいな。俺も、そろそろ強者の立場からの眺めに飽きてきたところだ」

真名瀬 裕太 「そうか? 半々ぐらいじゃなかったか?」

梅村 房緒 「どうひいき目に見ても、7:3ぐらいで負けてたわよ?」

腰を下ろした真名瀬がポンと手を打つ。

真名瀬 裕太 「そうだ。さっきの打球が蓮太郎に当たったのは卓球の神様の思し召しだ。蓮太郎、おまえ代われ」

押川 蓮太郎 「あれは俺じゃなく眼鏡に当たったんじゃなかったのか?」

真名瀬 裕太 「その通りだ。しかし眼鏡に卓球はできない。だから所有者がやるんだ」

押川 蓮太郎 「まあいいけど」

ラケットとピンポン球を持って立ち上がる押川。

真名瀬 裕太 「蓮太郎、おまえには俺が授けた必殺スマッシュ、その名もクリムゾン・オーバー・ドライブがある。 奴ごときには決して負けない。自分の力を信じるんだ」

押川 蓮太郎 「ああ、そうだな、そうだな」

カメラ、卓球台を挟んだ榎木と押川を写す。

榎木 律也 「次の相手は軍師サマか。面白い、そのクリムゾンなんとやらを見せてもらおうか」

押川 蓮太郎 「一番ドラマチックな場面で使ってやるさ」

榎木 律也 「さすがは、メイクドラマが信条の男――ホレよ!」

榎木が軽めのサーブを打つ。

押川 蓮太郎 「クリムゾン・オーバー・ドライブ!」

カメラ、真名瀬の顔を写す。

真名瀬 裕太 「すぐかよ!」

カメラ、卓球台の榎木方面から押川を写す。
スローモーション。ピンポン球が押川のもとへ届いた瞬間、激しく振り上げられた押川のラケットがピンポン球を打ち、 猛烈な縦方向の回転を与え――超速度の回転による空気摩擦で真っ赤な炎を吹き出したピンポン球が、 中国製の有人宇宙船「神舟5号」のように加速し、榎木のラケットを粉砕した!
というようなことはなく、押川の大振りなスイングは普通に空振り。ピンポン球は押川の背後へ跳ねて行き、押川はあわてて後を追う。

カメラ、壁際の4人を写す。

三鷹 槍 (園田のほうを向き)「そういえば、兄貴はどうしてる? 迷惑かけてない?」

園田 麗華 (手元の手帳に何か書いていたが、ハッと顔を上げ)「うん……。最近は、わたしの顔も憶えてくれたみたいだし。ずいぶん落ち着いたよ」

三鷹 槍 「そうなんだ……。じゃあ、すぐに元にもどっちゃうかもな。いや、奴のことだから、明日にでも治るかも」

園田 麗華 「……うん」

三鷹 槍 「いやもう、双子の弟が言うのだから間違いないです。急に筋トレとか始めたりして。あと俺殴ったりとか」

園田 麗華 (微笑しつつ)「うん」

画面左右から榎木と押川がイン。

榎木 律也 「あー、駄目だ駄目だ。俺は疲れた」

押川 蓮太郎 「俺も駄目だ。卓球には向いてない」

真名瀬 裕太 「お、じゃあ俺が復帰しよう。――三鷹弟、やるぞ」

三鷹 槍 「俺、文化系なんだけどなあ」

真名瀬と三鷹が画面左右からアウト。

榎木 律也 「けっこう疲れるな」

押川 蓮太郎 「俺たちは素人だから動きに無駄が多いんだな。外れた球を取りに行く運動量も馬鹿にならない」

梅村 房緒 (笑って)「押川くん、空振りばっかりだったもんね」

榎木 律也 「こいつは片方見えないから、遠近感がつかめないんだ」

梅村 房緒 「あ、そうか……。ゴメン」

押川 蓮太郎 「いいよ」

榎木 律也 (ちょっと黙ってから)「でも、わりと楽しいな。みんなも呼べばよかった」

梅村 房緒 「多々良先輩とか、誘えばよかったのに」

押川 蓮太郎 「多々良さんは、トンカンに夢中でね」

梅村 房緒 「トンカン? ……ああ、刀鍛冶ね。ずっとやってるの?」

榎木 律也 「ずっとだよ。それもかなりいい仕事でさ。俺も今、孫六を打ち直してもらってる。 研ぎが終わったらロノベが入るって言ってる。そしたら、錆びないし折れなくなる」

園田 麗華 「もう、争いは終わったのに……」

榎木と押川、顔を見合わせる。

押川 蓮太郎 「……大丈夫。もう人を斬ることにはならないよ」

榎木 律也 「そうだな。俺はこの校舎がどこまで上に続いているのか、 それぞれの階の外がどうなってるのか見に行きたいから――」

押川 蓮太郎 「探検部だからな」

榎木 律也 「そう、探検部だからな。それで孫六が――刀が必要だ。 今だってティーンズをちょっと潜れば、刀なしには生き残れない。 でも、もう人同士でしのぎを削りあうことにはならない。みんな前回で懲りたよ」

園田 麗華 「そう……。そうね。もう、あんなのこりごりだもんね」

カメラ、卓球台を挟んだ真名瀬と三鷹を写す。

真名瀬 裕太 「グレイトフル・マーベラス・スマッシュ!」

真名瀬の振りあげたラケットが――謎の閃光を放ちつつ0.5秒ほどの時間停止現象を引き起こしたのち、 吸い込むようにピンポン球を吸着、そして爆発的な勢いで驀進して三鷹の胸部に命中し、 三鷹は亜光速で吹き飛んで地球を一周して元の場所に落下した!
というようなことはなく、真名瀬の普通のスマッシュが普通に決まって三鷹は悔しがった。
F・O。かぶるようにしてN。

ナレーション 「一般に暗く血なまぐさいイメージで語られがちな転校初期であるが、 転校初期は、このように当時の人々が明るく生きようとしていた時代でもあった」

クレジット・タイトル。終わったらF・I。
カメラ、壁際の榎木、押川、梅村、園田を写す。園田は何か手元の手帳に書き付けている。

梅村 房緒 (園田の手元をのぞき込んで)「麗華ちゃんはさ、さっきから何書いてるの? また小説?」

園田 麗華 「え……?(と、あわてて手帳を隠す)」

梅村 房緒 「あ、ゴメン、見ちゃ駄目だった?」

園田 麗華 「そんなんじゃないけど……。日記よ。普通の日記。昨日書けなかったから、忘れないうちに書こうと思って」

梅村 房緒 「ふーん(卓球台に目を戻す)」

カメラ、園田の手帳にズーム。書かれている文字を追うようにして園田のモノローグ。

園田 麗華(声) 「5月3日。もうあの戦争――あえて戦争と呼ぶ――が終わってひと月以上が経った。……」


なぜか脚本調で。
あと、僕も卓球がしたいし魔球が打ちたいです。



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