みずから君の(あるじ)と男は名乗った。
それで思い出した。
君の名前は加賀明一(かがめいいち)。あの転校時、生徒会の副会長だった。
突然の転校によって理不尽な世界に投げ込まれた生徒たちをまとめあげ、絶望に沈んでいた高校生たちを希望という名で統率し、 元の世界への帰還を目指して全階に秩序をもたらそうとした生徒会長――和泉志麻(いずみしま)
彼女を補佐し、押川蓮太郎(おすかわれんたろう)に率いられたわからず屋の連中と争った人物だ。
正直な話、君は元の世界への帰還も、敵対勢力との戦いもどうでもよかった。ただ和泉志麻(いずみしま)の眩しい理想と正義を実現させることだけが生き甲斐だった。
もっとも、眩しく輝いていたのは彼女の理想と正義ではなく、 ただ彼女個人の光であると気づいたのは、ずっとあとになってからだったが。
だが彼女は死んだ。
頼りにしていた七大委員長(セクンダデイ)に裏切られ、君の目の前で殺されたのだ。
彼らは保身のために和泉志麻を君の目の前で殺し、君を暗く淀んだ所へ堕とした。
そして、不老を得て降服し、押川たちの築いた無気力な平穏の中でぬくぬくと生き延びた。
百年が過ぎ、戦犯だった彼らは再び七大委員長(セクンダデイ)となった。
君は百年のあいだ地獄で想像を絶する苦痛にさいなまれ続けてきた。
復活にともなう肉体的な苦痛など比較にならない、精神的な苦痛だった。
これは復讐なのだ。
目の前のデーモンとの契約の力を借りて行う復讐。
「そうだ」
契約によって君の心を知る力を得たデーモンが言った。
「我が名はアリオク。復讐のデーモン。復讐の成就こそ我が歓び。ただし――」
ちらちらと色を変える炎のような瞳を邪悪な笑みに歪めて続ける。
「私怨復讐に限る。 加賀明一(かがめいいち)。 お前に力をやろう。復讐の力だ。 お前はこれより先、復讐がなされるまで死ぬことはない。死んでも甦る。 切れた筋はつながり、欠けた骨はふさがり、失った血はあふれる。倒れても立て。死しても甦れ。 加賀明一(かがめいいち)、 お前は私怨復讐の黒い甘美を我に味わわせよ。復讐のデーモンの (しもべ) として (あるじ) に仕え、自らの敵を殺して回れ。 だが心せよ、お前の復讐がすべてなされたときは――」
君は頷いてこたえる。
「わかっている」
そして復讐のデーモン、剣の守護者アリオクは姿を消した。
君は大声で叫ぶ。
「ニバス!」

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