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だが戦闘と呼べるものにはならなかった。サイコロを振るまでもない。
北岡の肉体は若者のそれだが、彼は一世紀にわたる怠惰で筋力も度胸も矜持もなにもかもを失っていた。
対する君は、一世紀のあいだ地獄で非人間的なまでに冷たい復讐心と鉄の意志を鍛えていったのだ。
ニバスの焼き付いた朔月左文字を持った君は、丸腰の北岡高人を五時間ほどかけてゆっくりと殺していった。
北岡の絶望の悲鳴を滋養味あふれる濃厚なスープのように味わったアリオクは満足して消えた。
こうして北岡高人は死んだ。
彼は生来の怠惰の
性
によってその身を成し、生来の怠惰の
性
によってその身を滅ぼした。
だが、この話にはどんな教訓もない。
夜も更けたので、君はこの屋敷で一晩を過ごすことにする。かつて北岡だった肉塊に腰掛けて、
君はナイトキャップ代わりに一冊の本を無造作に選んで読みだす。
「コードウェイナーは猫が好きだ。猫もコードウェイナーが好きだ。…………」
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