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君は扉のノブに手をかけたまま動きを止めた。
部屋の中から話し声が聞こえてくるのだ。君は耳を澄ませた。
「――それにしても、いい剣だぜ。これは」と男の声。
「やっこさんが急に抜き身を振り回して飛び込んできたときには驚いたがな」
別の声が言う。
「おかげで二人も
殺
られちまった。もっとも、おかげでこちらは分け前にあずかれるってもんだ。
侵入者の撃退報酬を生き残りで分けるべきだッつえば北岡さんも納得するだろう」
「納得というより、考えるのが『面倒だから』ってのが正解だな」さらに別の声。
「『面倒だから』、な」
笑い声。
「そうそう。『面倒だから』。へへへ」
また笑い声。彼らの身内でよく使われる冗談のようだ。おそらく北岡高人の口癖なのだろう。
「それにしてもいい剣だ。見ろよこの真ッ黒な
鋼
をよ」
最初の男が言う。声に笑いが混ざっているのが扉越しでもわかる。
「またかよ。賭けに勝った取り分だろうが、あんまり自慢するんじゃねえよ」
「おう。あのモヤシ野郎の獲物にしては確かに凄えが。それほどのものか」
「へへへ。俺はさっき
茎
の銘を見たんだ。『左』ってだけ彫ってあった」
「おい! そりゃ
左文字
じゃねえのか。
業物
だぜ。確か三本とか四本とかしかないっていう――」
そこで君は扉を開ける。
三人の男たちがいっせいに君を振り向く。
ここは君が最初に死ぬ前に屋敷に入ったときの玄関ホールだ。
玄関とはいえ、来客をまったく考慮に入れていない屋敷だから、
椅子とテーブルがいくつか置かれて使用人の居間と食堂を兼ねたような雑然とした造りになっている。
「五本だ」
君は言った。
「左文字は全部で五本だ。
紅雪左文字。
散花左文字。
傾星左文字。
虚宙左文字。
そしてそれだ。
朔月左文字」
呆気にとられていた男たちだが、君の声を聞くにつれて冷静さを取り戻した。
「へへへ。さっきのは死んだフリか? なかなか役者じゃねえか」
君の朔月左文字を持った男が椅子を蹴って立ち上がる。
「面白え。今度は本当に殺してやる。お前の剣でな。へへへ」
そう言って刀身の真っ黒な太刀――朔月左文字を構えた。
だが君は男を無視して話を続ける。
「それと、左文字は業物じゃない。
最上大業物
だ。今の連中はそんなことも知らないのか」
「ぬかすな、若造!」男が嘲笑の入った野卑な声で叫ぶ。
「お前ら、手を出すなよ。俺がやる。へへへ」
君は左腰の脇差しを抜いた。
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