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この部屋は食料庫だ。
校舎からも人里からも離れている屋敷らしく、 貯蔵可能な食料が木箱や袋に入れられて積み上げられている。
40階で獲れた魚介類の缶詰に瓶詰。25階産と大書された塩の袋。ジャガイモや玉ねぎはなじみ深いものだが、 君が見たことのない野菜や果物もある。
精製した白米の袋もあった。転校後5年の時は園芸部が中心となって種もみの栽培に苦心していたのだが、 君が地獄に堕ちていた百年のあいだに一般的な穀物になったようだ。
こんな異質な世界で何年も生き延びられるはずがないと思っていたものだが、 百年経ったいまでは生徒たちの子孫はうまく順応しているようだ。
しかし、だからといって全校一致の帰還体制を指導した 和泉志麻(いずみしま)
が否定されるいわれはない。
仮に彼女の目指した方向が間違っていたとしても、裏切り者の利己心のために殺されるような――
殺され――
君は我知らずぎりぎりと音を立てて歯ぎしりをしていた。
だが、熱くなってはいない。百年のあいだ保ち続けてきた怒りは一時の激情ではなく、 鋭く冷たい殺意となって君の全身に染みわたっている。
空腹でもないし、ここにいても意味はないだろう。君は扉を開けて部屋を出た。

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